2. 2.  身体所見

【診察】

全身をくまなく診察することが大切。自分で順序を決めて見落としのないようにする。問診で特徴的な所見の予想されるところは重点的に行う。眼底、直腸診も忘れない。

1) まず一般的な情報から

  1. 身長体重:特に重篤な患者ほど重要であり、摂取カロリー量や薬剤量、輸液量その他の考慮に必要。重症患者ほど最初にきちんと測定しておく事が重要。
  2. バイタルサイン:血圧(Volume lossや起立性低血圧疑いの患者では立位と臥位で)、脈拍、呼吸数(呼吸器疾患の重症度がわかる)、体温、SpO2(酸素流量を併記)など

2) Cosciousness

JCSおよびGCSにて記載する。意識状態の変動する病態(神経疾患や敗血症等)の評価とフォローに有用(外傷、脳血管障害、敗血症その他)

3) 頭部

  1. 頭部:形、毛髪、副鼻腔の圧痛や叩打痛、側頭動脈怒張など
  2. 眼:視野、眼球運動、対光反射、複視の有無、眼球および眼瞼の色調、眼底所見(浮腫や出血、血管の変化)
  3. 耳:聴力(weber,rinne)、鼓膜、耳介牽引痛
  4. 鼻:鼻中隔、粘膜、鼻茸、鼻汁、出血(耳鏡など使用して覗き込む)
  5. 口腔、咽頭:口腔粘膜(発疹や潰瘍)、舌(乾燥か湿潤か、付着物はないか、偏位はないか、発赤は)、扁桃、咽頭(後鼻漏含む)、口唇、歯肉

4) 頚部

  1. JVD(45度坐位で)、Hepatojugular reflex
  2. Bruit(甲状腺、頚動脈の病変は脳血管障害では必ず、ASでは狭窄音が放散する)
  3. Neck stiffness(熱が出ていたら必ず、特に髄膜炎疑いの時)

5) リンパ節

  1. 頚部
  2. 耳介前部、後部
  3. 鎖骨上部
  4. 腋窩
  5. 滑車
  6. 鼠径部

6) 胸部

  1. 胸郭の形(結核後遺症など)
  2. 運動の左右差:気胸や広範な無気肺では病側の動きが極端に悪くなる)
  3. 呼吸音:前胸部および背中から聞く、連続性の音(wheeze,rhonchi)および断続性の音(fine crackle,coarse crackle)の判別。呼吸音そのものの強さ(肺気腫や挿管寸前の気管支喘息では呼吸音が低下)
  4. 心音:T、U音の様子(T音は心不全や僧帽弁逆流で低下)、V音(心室急速充満音:心筋のコンプライアンスが低い場合に起こる)、W音(Atrial kick:心房負荷時)
  5. 心雑音:最強点、Phase、ピッチ、Levine分類
  6. PMI(Point of maximal impulse) :左鎖骨中線より左にあれば心肥大を示唆、心窩部にPMIある時は通常右室の拍動を触れるものであり右室肥大を示唆

7) 腹部

  1. 腸蠕動音:触診の前に行う。しばらく聞いて少しでも音がすれば正常
  2. 腹部の形と触感:肥満があるかやせているか、硬いか柔らかいか
  3. 肝と脾臓および腎臓の触知
  4. 触診:圧痛の有無、腫瘤の有無、大動脈瘤を触知できる事も多い
  5. 再び聴診:Bruitの有無→AAAや腎動脈狭窄など

8) 背部

  1. CVA tendernessを確かめる
  2. 腰痛症→脊椎の叩打痛はないか、傍脊椎部の圧痛はないか

9) そけい部

  1. 鼠径部:Bruitの有無、リンパ節腫大、ヘルニア
  2. 必要があれば陰股部も→カンジダなどの真菌症も多い

10) 直腸診

  1. 前立腺の硬さ、形および圧痛の有無
  2. その他圧痛はないか、異常なmassや硬結はないか
  3. Fistula形成や、浸出液はないか
  4. 痔も

11) 四肢

  1. 皮疹はないか
  2. 前けい骨部の浮腫の有無
  3. 関節炎などの有無― water floating signなど

12) 皮膚

  1. 色、圧痛、皮疹(紅斑、紫斑含む)、末梢のチアノーゼの有無
  2. 爪の所見は栄養状態や、感染症の有無(特に敗血症)の判定に有用

13) 血管

  1. 触れやすい動脈は全て触れる。特に冠動脈疾患を有する患者や動脈硬化の強そうな人
  2. 間歇性は行→下肢動脈圧も測定、膝窩および足背、後脛骨動脈の触知

14) 神経学的所見

  1. 精神状態
    これは漠然としたものではなく、以下の様に分けられ客観的に評価可能である
    1. 意識状態:JCS、GCSで記載
    2. 見当識  :時間や場所、人に対する見当識(疑えばすぐに質問)
    3. 構語障害 および 失語 の有無
    4. 痴呆の程度→長谷川式スケール
  2. 脳神経
    I. におい(タバコのにおいなど)
    II. 視力、視野(脳血管障害などで障害される)
    III. 対光反射、および眼球運動
    IV. 眼球運動
    V. 顔面の知覚、咬筋
    VI. 眼球運動
    VII. 顔面筋の運動および舌の味覚
    VIII. 聴力
    IX. 味覚、嚥下
    X. 嚥下
    XI. 僧帽筋運動
    XII. 会話、嚥下
  3. 運動
    1. バレーサイン、フーバーサイン、膝立てテストで簡単に筋力評価
    2. それが駄目なら腕、足落下試験
    3. 徒手筋力テスト
    4. 関節のトーヌス
    5. 不随意運動の有無
  4. 協調運動
    1. NFN test
    2. HK test
    3. 腕回内回外試験
  5. 反射
    1. 左右差
    2. 異常反射
  6. 知覚
    1. 表在覚 温痛覚
    2. 深部覚 位置覚、振動覚
    3. そのた異常知覚(しびれ感ナド)
  7. 歩行、平衡感覚
    1. Romberg sign
    2. Gowers sign
    3. 歩行パターン(小脳はwide based gait等)
  8. 膀胱直腸障害
    1. 直腸診:肛門筋のトーヌスがわかる
    2. 1回尿量、回数など
感染診療の手引き ©2006 Norio Ohmagari.