2014.09.22

『研究者のための思考法』書評

「医学のあゆみ」誌2014年8月16日号に、『研究者のための思考法』の書評を書かせていただきました。許可を得て、こちらに転載します。

現代の日本は、競争原理の前提となる3つの要素(情報開示、人材の流動性維持、セイフティネットの確保)が揃わないうちに、競争原理が導入されてしまい、ともすれば、未来に希望を感じられない世の中になってしまっている。特に、研究者の場合、ポストが限られている中で、ポスドク1万人計画が実行され、常に時限付きの不安定な短期間の職を綱渡りしなければいけない様な状況になっている。

そういった時代の中で研究者が、どのようにキャリアを構築していけばよいのか、大きく社会状況が変わらない中、研究者が幸福で充実した人生を送るためにはどうしたらよいのか、島岡先生は本書で、心理学的、社会学的なアプローチで、アドバイスを送って下さっている。

島岡先生は前書『研究者の仕事術』(羊土社刊)では、膨大なビジネス書を読み込んで、研究者というビジネスの中でいかにキャリアを積むかを指南して下さった。今回は、膨大な心理学、社会学の書籍、文献をお読みになって、エビデンスに基づく、研究者の生き方を指南して下さっている。

本書で取り上げられている10のヒントの中でも、私の胸に響いたのは、第1章の「好きなことをする­天職に出会えなくても、仕事は充実する」と第6章の「研究者のあたらしい働き方–スラッシュのあるキャリア」であった。第1章では、天職の取り扱い方と天職を巡る自分探しの旅を止める方法について述べている。この中で、天職は自分で探すものではなく、まさに天から神様が与えてくれるものであり、受け身でいるべきであると説く。第6章では、1つの専門性にしがみつかずに、Serial Masteryであるべきと説いている。本文を少し引用させていただく。

現代では第1の専門性を身につけ仕事をしていく中で、次の第2の専門性を身につけることが必要になってきます。グラットン教授は専門性を身につけることをMasteryと呼び、第2,第3の専門性を次々と身につけることをSerial Masteryと呼んでいます。Serial Masteryが近未来をしなやかに生き抜くための鍵となるのです。
(中略)
第2のMasteryで仕事を始めたとき、第1のMasteryに関連した仕事を完全にやめてしまわなければ、2つの専門性を1人の人が持つことによる新たな希少性や、2つの専門性の相乗効果による高い付加価値が生み出されることもしばしば起こるでしょう。複数の肩書きを持つと言うこと、たとえば、「医師/コンサルタント」や「研究者/教育者/社会起業家」などを私は“スラッシュのある人生”とよんでいます。これはグラットン教授の言う、Serial Masteryに親和性の高いキャリアモデルだと考えられます。

研究のテーマどころか、キャリアもころころ変わって、自分でも節操なさ過ぎることが悩みであった私に響く、力強い言葉だった。

2014.09.21

コスモス@浜離宮恩賜庭園

コスモスの季節になると行きたくなる浜離宮。

キバナコスモスが中心で、まだ、コスモスはこれからという感じ。彼岸花がいい感じでした。浜離宮で花を撮って、隅田川クルーズして、浅草というのは、私が考える都内の写真撮影の鉄板コースです。天気もよくて気持ちよかった。

2014.09.14

電解質を勉強するための良書

学生、初期研修医、および、電解質についてまとめて勉強したいという初学者にまずおすすめしたいのが、手前味噌で申し訳ありませんが、私の著書。

電解質輸液塾
電解質輸液塾
posted with amazlet at 14.09.14
門川 俊明
中外医学社

症例ベースで使うなど、初学者でもクリアカットに理解できるような工夫をしています。この本がマスターできたら、

に進むのがよいでしょう。私の友人でもある柴垣先生が書いた、この本は、本当によくできた本です。レベルとしては、腎臓専門医を目指す人向けと言っていいと思いますが、日頃感じる、水・電解質の疑問のほとんどに答えてくれます。私自身、本書を隅から隅まで読み込んで、自分の知識のブラッシュアップに非常に役立ちました。柴垣 有吾先生の、アメリカ仕込みの臨床腎臓病学の知識は、他の書物と一線を画しています。短期間の間に第3版まで改訂し、最新の知見を盛り込もうとする彼の誠実さを表した良書です。

さて、この次の本となると、残念ながら、日本語のテキストブックでおすすめできるものはありません。一つの道は、個々のトピックごとに、UpToDateを読むというのがよいと思います。それでも、どうしても、テキストブックが読みたいと言うことであれば、

をおすすめします。アメリカでも、電解質を真剣に勉強する人は、みんなこの本を使っています。2014年10月に第6版が出る予定ですが、何回も延期されているので、ホントに出るかどうかは分かりません。

さて、これ以外にも電解質に関しては、いくつかおすすめの本があります。

輸液を学ぶ人のために
和田 孝雄 近藤 和子
医学書院

電解質と言うよりは、輸液の本ですが、私の研究室の大先輩である和田孝雄先生の本。学生時代にご自宅にお邪魔したこともあったのですが、残念ながら、若くしてお亡くなりになりました。和田先生は、多くの「水電解質」の本を書かれていますが、改訂されることがなくなっているにもかかわらず、今でも売れ続けています。

和田先生の著作の中でも、もっとも売れている本が、本書です。和田先生が看護師の方2人に、輸液の基礎を講義していくというスタイルの本です。とても読みやすく、頑張れば1日で読み切れるような本ですが、私は、輸液の考え方を学ぶのにもっとも適した本だと思い、多くの研修医に推薦しています。

輸液の考え方を学びたいという初期臨床研修医向け。

シチュエーションで学ぶ 輸液レッスン
小松 康宏
メジカルビュー社

この本は輸液レッスンというタイトルですが、電解質のホントしても秀逸です。とてもわかりやすい構成です。

電解質の本ではロングセラーの本。見た目はやさしそうですが、中身は意外と歯ごたえがあります。いきなり初学者の方がやっても、跳ね返されてしまうかも知れませんが、ロングセラーなだけの理由があります。

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