3. 2. 1. 市中肺炎の初期治療

ポイント:
治療開始前に喀痰、気管内吸引物を必ず培養に提出すること
(1) 原則として、まずは喀痰のグラム染色を行う
⇒ 当日であれば細菌検査室に連絡すれば、染色所見の詳細を知ることが出来る
(2) 血液培養2セットも必ず採取
(3) 喀痰グラム染色で起因菌が推定できる場合は、各々の菌ごとの第一選択薬を使用する
(4) 推定不能な場合、病歴および臨床所見から以下の1)−3)のいずれであるかの鑑別を行い、抗菌薬を選択する。非定型肺炎の診断には以下の表を参考にする
(5) 下記の表を使っても細菌性肺炎および非定型肺炎の鑑別が難しい場合には、細菌性肺炎(誤嚥性肺炎)と非定型肺炎の治療を併用する。
(6) 起因菌が判明したら抗菌薬のDe-escalationを積極的に行う。すなわちBroad spectrum からNarrow spectrumの薬剤へ変更を行う

ノート:「初期治療は単剤がよいか、併用がよいか?⇒ 本手引きは「臨床情報から細菌性肺炎・非定型肺炎の区別が可能であれば、併用の必要はない」という立場をとる。詳細は次頁参照

起因菌

初期治療

1) 細菌性肺炎
Streptococcus pneumoniae
H.influenzae
Moraxella cararrhalis
Klebsiella pneumoniae
Staphylococcus aureus (インフルエンザ・RSウィルス罹患後)

Ampicillin/sulbactam 1回1.5 g 6時間毎静注 

グラム染色で肺炎球菌間違いなし⇒
Penicillin G 1回200万単位4時間毎静注もしくは
Ampicillin 1回1g 6時間毎静注 

2) 非定型肺炎
Mycoplasma pneumoniae
Chlamydia pneumoniae
Legionella pneumophila
Chlamydia psittaci(鳥を飼っている)

Minocycline 1回 100mg 12時間毎静注
Erythromycin 1回 500mg 8 時間毎静注

3) 誤嚥性肺炎
Peptostreptococcus
Fusobacterium
Bacteroides

Ampicillin/sulbactam 1回 1.5 g 6時間毎静注
Clindamycin 1回600mg  8時間毎静注

 

臨床徴候から非定型肺炎を疑う

リスクファクターと市中肺炎起因微生物の関係

危険因子→微生物の予測(1)

危険因子→微生物の予測(2)

危険因子→微生物の予測(3)

「初期治療は単剤がよいか、併用がよいか?」

欧米のガイドラインでは初期治療として抗菌薬併用が勧められているが、一方で下記のような知見も揃ってきている。当マニュアルでは「臨床情報から細菌性肺炎・非定型肺炎の区別が可能であれば、併用の必要はない」という立場をとる。ただし重症例はこの限りではない。

抗菌薬は併用?単剤?

3. 2. 2. 重症市中肺炎(ICU入室必要)の初期治療

ポイント:

  1. 重症度の高い市中肺炎の2大起因菌はS. pneumoniaeLegionella pneumophila
  2. 治療開始前に喀痰、気管内吸引物もしくはBALFおよび血液培養2セットを必ず培養に提出すること
  3. 起因菌が判明したら抗菌薬のDe-escalationを積極的に行う。すなわちBroad spectrum からNarrow spectrumの薬剤へ変更を行う。

起因菌

初期治療

S. pneumoniae
Legionella pneumophila
H. influenzae
Gram negative bacilli

Ceftriaxone 1回1g 12時間毎静注

 Erythromycin 1回500mg 12時間毎静注 OR Ciprofloxacin 1回300mg 12時間ごと静注 (特にLegionella疑いの場合)

3. 2. 3.  複雑な背景因子がある場合の肺炎、もしくは院内発症肺炎(入院5日目以降発症)の初期治療

ポイント:
治療開始前に喀痰、気管内吸引物もしくはBALFを必ず培養に提出すること

  1. 原則として、まずは気道分泌物のグラム染色を行う
  2. 治療開始前に血液培養2セット採取
  3. 気道分泌物のグラム染色の結果起因菌が推定できる場合、抗菌薬は予想される菌に対する第一選択薬を選択
  4. ただし、喀痰グラム染色でグラム陰性桿菌が陽性の場合には、菌同定および感受性試験の結果が出るまで必ず緑膿菌のカバーを行う
  5. 起因菌が判明したら抗菌薬のDe-escalationを積極的に行う。すなわちBroad spectrum からNarrow spectrumの薬剤へ変更を行う。
  6. 起因菌が推定不能な場合、エンピリックセラピーとして以下の抗菌薬を選択する
  7. 人工呼吸器関連肺炎では嫌気性菌の関与は少なく、原則として嫌気性菌のカバーは不要
  8. 複雑な背景を有する患者は耐性菌の保菌率が高いため、抗菌薬の選択時には必ず過去の培養結果を参考にする
    複雑な背景の例[1]
    • 過去90日以内の抗菌薬投与
    • 発症時点で5日以上入院中
    • 施設内で多剤耐性菌の分離率が高い
    • 肺炎のリスクファクターあり
      • 過去90日以内に2日以上入院している
      • 長期療養施設入所中
      • 在宅IVH中
      • 30日以内の維持透析
      • 在宅創傷ケア中
      • 家族が多剤耐性菌を持っている
      • 免疫不全疾患・免疫不全療法(ステロイドなど)

起因菌

初期治療

Klebsiella pneumoniae
Pseudomonous aeruginosa
Enterobacter sp.
Serratia sp.

MRSA

Peptostreptococcus
Fusobacterium
Bacteroides sp.

Legionella pneumophila

入院4日以内発症で、緑膿菌保菌歴なし
⇒ 市中肺炎の初期治療に順ずる

入院5日目以降発症もしくは、複雑な背景因子あり

  1. Cefepime 1回1g 8時間毎静注(誤嚥が疑われる場合にはこれにClidamycin 1回600mg  8時間毎静注を追加)
  2. Piperacillin/tazabactam 1回2.5g  6時間毎静注
  3. Cefoperazon/sulbactam 1回2g  8-12時間毎静注

注意が必要な場合
Legionella疑いがある場合
上記に併用して
Ciprofloxacin 1回 300mg 12時間毎静注

MRSA感染
上記にVancomycin 1回15mg/kg 12時間毎静注を併用

3. 2. 4. 市中発症の肺膿瘍

ポイント:
原則として、治療開始前に気管支鏡で検体(得られぬ場合は喀痰)を得る

  1. まずは検体のグラム染色を行う
  2. この結果起因菌が推定できる場合、抗菌薬は予想される菌に対する第一選択薬を選択
  3. 起因菌が推定不能な場合、以下の抗菌薬を選択する
  4. 起因菌が判明したら抗菌薬のDe-escalationを積極的に行う。すなわちBroad spectrum からNarrow spectrumの薬剤へ変更を行う。

起因菌

初期治療

Microaerophilic streptococci
Peptostreptococcus
Fusobacterium
Prevotella
Bacteroides sp.
Clostridium
Actinomyces
Propionibacterium

Klebsiella pneumoniae
Streptococcus pneumoniae(
S. aureus(MSSA)

Ampicillin/sulbactam 1回1.5 g 6時間毎静注

培養結果によってはPenicillin G で治療可能な場合あり

3. 2. 5. 院内発症・濃厚な医療機関受診歴ある場合の肺膿瘍

ポイント:
原則として、治療開始前に気管支鏡で検体(得られぬ場合は喀痰)を得る

  1. 原則として、まずは検体のグラム染色を行う
  2. この結果起因菌が推定できる場合、抗菌薬は予想される菌に対する第一選択薬を選択
  3. 起因菌が推定不能な場合、以下の抗菌薬から選択する
  4. 起因菌が判明したら抗菌薬のDe-escalationを積極的に行う。すなわちBroad spectrum からNarrow spectrumの薬剤へ変更を行う。

起因菌

初期治療

Pseudomonas aeruginosa
Proteus mirabillis
Klebsiella pneumoniae
Streptococcus pneumoniae(Type 3)
S. aureus(MSSA,MRSA)

Microaerophilic streptococci
Peptostreptococcus
Fusobacterium
Prevotella
Bacteroides sp.
Clostridium
Actinomyces

  1. Cefepime 1回1g 8時間毎静注+Clidamycin 1回600mg 8時間毎静注
  2. Piperacillin/tazabactam 1回2.5g 6時間毎静注
  3. Cefoperazon/sulbactam 1回2g 8-12時間毎静注

注意⇒複雑な背景を有する患者は抗菌薬耐性菌の保菌率が高いため、抗菌薬の選択時には必ず過去の培養結果を参考にする
「複雑な背景」について⇒前頁院内肺炎の項を参照[1]

感染診療の手引き ©2006 Norio Ohmagari.