医家向け電脳道具箱その壱「Google Scholarを使い倒す」

■Google Scholarは学術情報に特化した検索エンジン

「ググル」といえば、「Googleで検索すること」というくらい、検索エンジンとしてGoogleは普及している。Google社は、Google検索以外にも数多くのwebサービスを提供している。その中に、Google Scholar(http://scholar.google.com/)という検索サービスがあるのをご存じだろうか。

Google Scholarは学術情報に特化した検索エンジンである。通常のGoogle検索はネット上のあらゆるドキュメントを検索対象としているが、Google Scholarは検索対象を学術論文、学位論文、書籍、学術出版会社や学会、学術機関からの抄録や論文といった学術情報に絞っていることが最大の特徴である。Google Scholarは検索対象が学術情報に限られているだけでなく、通常のGoogle検索にはないユニークな機能を提供している。

 

■Google Scholarで論文のインパクトファクターが簡単にわかる?

Google Scholarのユニークな機能の一つが文献の引用関係を表示する機能である。Google Scholarの検索結果にリストアップされる各文献データには、「引用元 ○○」というリンクがついており、その文献が他のどの文献で引用されているか、また、他の論文に引用された回数が表示される。わかりやすく言えば、各文献データの「インパクトファクター」が一目でわかるのである。

インパクトファクターは、雑誌ごとの掲載論文1報あたりの年間の平均引用回数を指標化したものであり、毎年、トムソンサイエンティフィック社の引用文献データベースWeb of Scienceに収録されるデータを元に算出されている。また、各論文ごとの引用回数や引用している論文へのリンクもWeb of Scienceで調べることができ、「Times Cited」というリンクで表現されている。Google Scholarの「引用元 ○○」というリンクはWeb of Scienceの「Times Cited」というリンクとほぼ同じものといえる。ただし、Web of Scienceで計算された引用回数とGoogle Scholarで表示された引用回数はまったく同じではない。両者では集計に用いる雑誌が異なるし、雑誌収載にあたって審査をおこない、公開しているWeb of Scienceに対し、Google Scholarの検索対象雑誌は明らかになっていない。しかし、Web of Scienceは契約料がとても高いデータベースで、契約をしていない大学図書館も多い。無料で引用関係が調べられるデータベースは現在のところ、Google Scholarしかなく、その点だけでもGoogle Scholarの存在価値は高いといえる。

 

■Google Scholarは逆引き検索ができる

また、Google Scholarの引用文献へのリンクは、逆引き検索として利用できる。「逆引き検索」とは何か、例を挙げて説明する。2000年にNature誌に掲載された論文Aに興味を持ち、その論文に関連した論文を探したいとする。2000年以前の関連論文は論文Aの最後にある引用文献リストから見つけることができる。しかし、論文Aの研究データが、その後、どのように発展していったのか、2000年以降の関連論文を見つけるのは大変なことである。せいぜいPubMedでキーワードなどを使って再検索するくらいしか方法はない。しかし、Google Scholarの「引用元 ○○」のリンクをクリックすれば、論文Aが発表されたあとに論文Aを引用した論文の一覧を見ることができるので、その後の研究の進展状況、最新の関連論文を見つけることができる。このような逆引き検索は使い始めるととても便利なものである。

 

■裏技その1:Google Scholarを英語論文を書く際のお供に

ここまで話をしたGoogle Scholarの便利な機能はすでにWeb of Scienceに搭載されている機能である。しかもWeb of Scienceの方が正確であり、Web of Scienceを使える環境にいる方には、メリットとはいえない。しかし、Google ScholarがPubMedやWeb of Scienceに対して持っている大きなアドバンテージが一つある。それは、PubMedとWeb of Scienceが主に抄録を対象にして検索をかけているのに対して、Google Scholarは全文を対象にして検索をかけているという点である。そこで、全文検索であるメリットを生かしたGoogle Scholarの裏技を2つ紹介する。

ひとつは、英語論文を書く際の例文辞書として有用ということである。英語論文を書くときには、「本当にこんないいまわしでよいのか」、「前置詞はこれでよいのか」といった不安がつきまとう。そんなとき、Google Scholarが役立つのである。たとえば、「最もヒトの慢性腎炎に近いモデル」という英語のフレーズを作るのに、「a model most resembling human chronic nephritis」という文章を考えたとする。こんな表現でよかったかと心配になったら、"model most resembling"をGoogle Scholarにかけてみる。 このときかならずダブルクォーテーション(")でくくってフレーズ検索にすることがポイントである。Google Scholarでは、ストップワーズ(冠詞や前置詞など頻繁に使われる単語、記号、文字など)を無視するが、”でくくった場合は、ストップワーズは無視されない。また、通常検索では、model、most、resemblingがどこかにでている文章が検索されるが、"でくくれば、まさにその語順のものだけが検索される。実際に"model most resembling"で検索してみると、1件しかヒットしない。間違いではなさそうだが、こなれた表現ではないのかと思い、"model that most resembles"で検索してみたら、今度は27件がマッチした。検索結果画面に表示されるページ数は、検索をかけた表現が、どの程度、一般的に使われているか把握する目安となる。この場合、"model that most resembles"の方が一般的ということがわかる。

適切な前置詞探しは得意中の得意である。この場合、アスターリスク(*)を使う。ダブルクォーテーションマークをつけてフレーズ検索にした場合、アスターリスクは1文字のワイルドカードとして機能する。たとえば、mechanismとapoptosisを結ぶ前置詞はofかforか?こういった場合は、アスターリスクが有効である。
"mechanis * apoptosis"で検索すると、4040件がヒットし、圧倒的にofが多く、一部forなどが見られる。実際にどのくらいの頻度で使われているのかを調べるために、"mechanis of apoptosis"で再検索すると3110件、"mechanis for apoptosis"で再検索すると314件がヒットした。ということで、ofが一般的なようである。また、他にもinvolvingが見つかり、場合によっては、こっちの方がしっくり来る場合もある。

こうした巨大な英語例文集としての使い方は、Googleを使ってもいいのだが、英語論文に使う英語は、英語論文に限って探した方が、ぴったりの表現を探しやすいので、Google Scholarがおすすめである。

 

■裏技その2:Google Scholarは研究にも役立つ

さて、もう一つの裏技が、実験で使う試料の情報を得るための検索エンジンとしての使い方である。「免疫組織化学の抗体をどこから手に入れればよいのか」、「薬剤を投与するのにどのくらいの量を使えばよいのか」、こんな疑問を見事に解消してくれる。たとえば、Covance社が出している抗Cre recombinase抗体が免疫組織に使えるのかどうか調べたいとする。PubMedで「cre antibody covance」を検索しても一つも文献が引っかからないが、Google Scholarでは337件もひっかかる。そのリンクをたどれば、実際にこの抗体が免疫組織化学で使われているという報告があるかすぐにわかる。さらに、その論文には、実験ための条件やプロトコールが書かれているので大変参考になる。

 

■Google Scholarは進化し続ける

と、ここまで、Google Scholarの使い方を紹介してきたが、実はGoogle Scholarは執筆時点で未だベーター版である。Google Scholarがベーター版として最初に公開されたのが、2004年。その後、少しずつ機能が追加され進化し続けている。2006年4月には、「Recent articles」というソートオプションが追加された。それまでGoogle Scholarでの検索結果は、関連度の高い順、つまり、被引用数の高い順に並んでいた。当然のことながら、古い論文ほど被引用回数が多くなるので、検索結果の先頭の方には、古い論文が並ぶことになる。検索結果を新しいものから順番に並べられないことは、Google Scholarの欠点の一つだったわけだが、その欠点が一部解消した。2006年7月には、Google Scholarの日本語版が開始された。これによって、日本語での検索が可能になった。ただし、日本語の論文の電子化およびwebへの掲載が進んでいないこと、PubMedに相当するような日本語の論文検索データベースが存在しないこともあり、使い物になるにはもう少し時間がかかると思われる。2006年8月には、指定した図書館へのリンクが追加された。このように、次々と機能が追加され、使いやすくなっている。

Google Scholarは、それだけですべてまかなえるわけではないが、PubMedや他のデータベースと併用しながら、うまく使っていきたいデータベースである。

 

以上、医学のあゆみ220巻3号掲載「Google Scholarを使い倒す」より許可を得て転載

その他の回は医家向け電脳道具箱の一覧をごらん下さい。

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