「論文捏造」

「論文捏造」

著者:村松 秀著、税込価格:\903、出版:中央公論新社、ISBN:4121502264、発行年月:2006.9【bk1】【amazon.co.jp

本書は2004年に放送されたNHKのBSドキュメンタリー番組「史上空前の論文捏造」を書籍化したものである。私は番組の方は見ていないが、読み応えがあり、おすすめの一冊である。

本書が扱っているのは、ベル研究所の研究員、ヤン・ヘンドリック・シェーンがおこした不正事件である。シェーン研究員はわずか数年の間に、超伝導に関する研究をNature、Sienceをはじめとした一流紙に立て続けに発表し続け(最も多いときは、8日間で1報の割合)、ノーベル賞間違いなしといわれていた。しかし、それらのデータはほとんどすべてがデータの存在しない捏造データであることが明らかとなった。捏造論文の数が膨大で、しかもインパクトのあるデータであったため、これまでに明らかになった科学の不正事件の中でも最大規模のものといわれている。

世界中の研究者が追試をおこなうもうまくいかなかったが、どうして疑われなかったかといえば、1報目のアイデアが斬新だったこと、シェーン研究員の上司でもあり共同研究者であるバトログ博士が超伝導の世界の大御所研究者であったことがあげられる。しかし、インパクトのある論文がものすごいスピードで掲載され続けたことに、疑問を持つ研究者が多くなり、ついには、同じグラフを使い回したことがきっかけになりデータの捏造がばれてしまった。

本事件はベル研究所に設けられた不正解明委員会によって、報告書が作成されたが、NHKの取材班は、独自に大規模な取材をおこなった。取材対象者は、捏造論文を追試した世界中の研究者、ベル研究所の関係者、シェーン研究員の出身大学、捏造論文を発表したNature誌、Sience誌の編集部などである。残念ながら、シェーン研究員自身への取材はかなわなかったが、シェーン研究員の上司であるバトログへのインタビューにも成功しており、その取材経過で得られた情報は、多くのスクープを含んでおり、BSドキュメンタリー番組「史上空前の論文捏造」は、バンフテレビ祭ロッキー賞をはじめ多くの賞を受賞した。

番組の方も是非DVD化して欲しい。


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